職人のどら焼き人気の秘密
職人喜一郎のどら焼きは、末廣屋喜一郎の和菓子の中で、圧倒的な一番人気。
この人気の秘密は何なのだろうか? 一番わかりやすく説明しているのが、集英社スーパージャンプ『世界一の皿』の記事だ。
トラディショナルおやつに秘められた職人技!
お馴染みのどら(銅鑼)焼き。小豆餡(あん)をホットケーキのような皮で挟んだ、言わば洋菓子的な和菓子である。ポピュラー故にマスプロ化も激しく、最近は大店はおろか、小さな店ですら手作りのどら焼きは少なくなってしまった。そんな中、完全手作りでどら焼きを作っているのが、末廣屋喜一郎だ。
第一は餡作り。この店では餡を用途によって数種類仕込むが、どら焼きに使うのは「煮崩し餡」と呼ぶ潰し餡だ。
素材の小豆は当然国産。1.豆の風味が強く、2.ふっくら煮上がるよう保水力が高く、3.皮も餡に残すので皮が軟らかい、などの基準で、北海道羊蹄山麓産のやや小粒な最上級品を厳選する。外国産は皮が硬く、真っ先にパスだ。
小豆をまず水に一晩浸し、「渋切り」を2回行なう。水と小豆を沸騰させて、アクなどとともに脱水する工程だが、この後小豆が含んだ水分のみで煮込んでいく。最初の火入れからここまで3〜4時間かかる。そして小豆の7割程度の砂糖を加え煮立てて火を止め、一晩冷ます過程で糖分を染み込ませる。その後微量の寒天とともに、焦げぬよう、味が回るよう、かつ適度に崩れるよう軽く練りながら1時間程度煮る。この時、糖分を含んだ水気も調節。
因みに、砂糖は個性が弱く、キレも良い大粒の上等なザラメ糖を使用。煮る鍋は、真ん中と端がほぼ同じ温度で保たれる=熱伝導率が良い大きな銅鍋を使用し、練りの回数を抑え、美しい仕上がりとなる。
第二にこだわりの皮。材料のキーになる卵は、近隣の農家からイサブラという種の、放飼い飼育の鶏の卵を入手。風味が強く粘性が強く、皮のふっくら感、味の深さ、焼き色に作用する。卵1と上白糖1弱を合わせ練り、液糖、醤油、みりん各微量を加え、薄力粉1と微かの重曹、水などを加え生地とする。決めは焼き。厚さ1p弱の超厚手の銅版(一文字)で、一枚一枚丁寧に手焼きする。この驚異の蓄熱力と良好な熱伝導でふっくら・ムラなく、じっくり均一なる火の入りによって風味豊かに焼き上がる。
冷まして餡を挟み、都合3日以上かけようやく完成。
香り高く、優しいが強い風味の餡。これも香り良く、ふっくら、しかし味の濃い皮。どら焼きの傑作だ!
大正ロマンの香り!!
この店の歴史は古い。かつては、近所に住んでいた武者小路実篤もここの、上生菓子や団子などを楽しんだ。当然どら焼きも食べていたが、卵の質の劇的進化などを鑑みると、この菓子は彼の時代より現在はかなり美味しくなっていると思われる。
★集英社スーパージャンプ『世界一の皿』より ©集英社
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